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名古屋地方裁判所 平成6年(行ウ)28号 判決 1996年12月06日

名古屋市千種区下方町七丁目四〇番地の一

原告

株式会社大東和建設

右代表者代表取締役

山内圀秀

右訴訟代理人弁護士

家田安啓

名古屋市千種区振甫町三丁目三二番地

被告

千種税務署長 井指一吉

右指定代理人

中山孝雄

同右

藤居正樹

同右

高田延男

同右

山下純

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成四年三月一六日付けでした原告の平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの事業年度の法人税の更正及び重加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いがない事実

1  原告は、建築土木設計施工などを主たる業務とする会社である。

2  原告は、平成三年九月一三日、原告の平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、次のような内容の修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。

(一) 所得金額 一億二二〇三万九六八五円

(二) (一)に対する税額 四七九三万五六〇〇円

(三) 課税土地譲渡利益金 〇円

(四) (三)に対する税額 〇円

(五) 課税留保金額 二六七四万一〇〇〇円

(六) (五)に対する税額 二六七万四一〇〇円

(七) 控除所得税額等 三二万六八八九円

(八) 税額((二)及び(六)の金額を合計して、(七)の金額を差し引き、一〇〇円未満を切り捨てた金額) 五〇二八万二八〇〇円

3  被告は、平成四年三月一六日付けで、原告の本件事業年度の法人税につき、次のような内容の更正(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税賦課決定をした。

(一) 所得金額 二億六三八三万四三八六円

(二) (一)に対する税額 一億〇四六五万三六〇〇円

(三) 課税土地譲渡利益金 八七一一万一〇〇〇円

(四) (三)に対する税額 二六一三万三三〇〇円

(五) 課税留保金額 一八八九万六〇〇〇円

(六) (五)に対する税額 一八八万九六〇〇円

(七) 控除所得税額等 二七万六九〇七円

(八) 税額((二)及び(六)の金額を合計して、(七)の金額を差し引き、一〇〇円未満を切り捨てた金額) 一億三二三九万九五〇〇円

4  原告は、本件更正処分について異議申立てをしたが、棄却され、更に審査請求をしたが、審査請求も棄却された。

二  争点1(本件事業年度における原告の所得金額)に関する当事者の主張

1  被告の主張

(一) 本件修正申告における所得金額一億二二〇三万九六八五円に、次の各金額を加算した二億八五七五万四八六七円が原告の本件事業年度における所得金額となる。

(1) 土地売却原価の過大計上額 一億六三七一万四一八二円

(2) 減価償却費の減算過大額 一〇〇〇円

(二) 土地売却原価の過大計上について

(1) 原告は、昭和六二年七月二五日に取得した別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の上に、鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一三階建のマンション「マリンシャトウYAMAMI」(以下「本件マンション」という。)を建築し、本件事業年度において、二戸(専有部分の面積合計一九〇・二四平方メートル)を除くその余の各戸の分譲を行った。

(2) 原告は、本件修正申告において、本件土地の取得価額は二億五〇〇〇万円であるとしているが、右取得価額は次のとおり、七四四八万九一〇〇円とすべきものであるから、原告は本件修正申告において、本件土地の取得価額を一億七五五一万〇九〇〇円過大に申告したことになる。

ア 西山哲美(以下「西山」という。)が代表取締役として経営していた株式会社磯波園(以下「磯波園」という。)が、昭和六二年五月下旬ころ、経営危機に陥ったため、西山は、原告代表者に対し、債務の弁済資金の提供を依頼した。

イ 原告代表者は、原告において西山に対して二〇〇〇万円の資金提供をすることを承諾し、西山が所有していた本件土地を担保に供することを求めたところ、西山はそれを承諾したため、昭和六二年六月六日本件土地について、原告のために、同月五日の代物弁済予約を原因とする所有権移転仮登記がされた。

ウ 西山は、昭和六二年七月下旬ころ、原告代表者に対し、更に五〇〇〇万円の資金提供を依頼し、その代償として本件土地の所有権を原告に移転することを申し出たため、原告はその申出を承諾し、同月二九日、本件土地について、同月二五日の代物弁済を原因として、西山から原告に対して所有権移転仮登記がされた。

エ 原告は、昭和六二年六月八日から平成二年三月三〇日までの間に、合計七四四八万九一〇〇円を西山に交付するなどして、西山に対して、磯波園の弁済資金を提供した。

オ 以上のとおり、原告は、西山に対して、磯波園の弁済資金を提供することを約して、本件土地の所有権を取得し、七四四八万九一〇〇円の資金を提供したから、原告は、本件土地を七四四八万九一〇〇円で取得したことになる。

(3) 本件マンションの専有部分の面積の合計は、二八三〇・三八平方メートルであるから、原告が右(1)のとおり分譲を行った専有部分の面積の合計は、二六四〇・一四平方メートルであり、これについての土地売却原価の過大計上額は、一億六三七一万四一八二円(取得価額の過大計上額一億七五五一万〇九〇〇円に、原告が分譲を行った専有部分の面積の合計を乗じ、本件マンションの専有部分の面積の合計で割った金額)である。

(三) 減価償却費の減算過大について

原告は、本件修正申告において、確定申告額から、減価償却費を九万一九七八円減算すべきところ、誤って九万二九七八円減算しているから、減価償却費の減算が一〇〇〇円過大である。

(四) 被告が本件更正処分において認定した原告の所得金額は、右(一)の二億八五七五万四八六七円を下回る。

2  原告の主張

本件土地の取得価額は、次のとおり二億五〇〇〇万円であるから、本件修正申告には、土地売却原価の過大計上はない。

(一) 磯波園は、昭和四五年の設立以来赤字続きであった。西山には、磯波園の赤字を填補する資力はなく、原告代表者の姉である山内節子(以下「節子」という。)からの借り入れによって赤字を填補していた。

(二) 原告代表者は、西山からの磯波園の弁済資金の提供を要請され、昭和六二年六月から、原告において、西山に対して、磯波園の債務弁済資金を提供した、そして、同月六日には、本件土地について、原告のために、同月五日代物弁済予約を原因とする所有権移転仮登記がされた。

(三) 原告代表者は、原告の西山に対する磯波園の債務弁済資金の提供は、一億円を限度として行うこととした。そして、原告代表者は、原告が西山から本件土地の所有権を取得することによって、右一億円及び節子の西山に対する貸金の弁済を受けることとした。

原告代表者は、節子の西山に対する貸金の額は二億円を下らないことを確認したが、本件土地の価格は二億五〇〇〇万円程度であると考えていたので、節子の西山に対する貸金のうち一億五〇〇〇万円について、本件土地の所有権を取得することによって弁済を受けることとした。

原告代表者は、西山との間で、以上のとおり二億五〇〇〇万円の弁済に代えて原告が本件土地の所有権を取得することを合意し、同年七月二九日、本件土地について、同月二五日代物弁済を原因として、西山から原告に対して所有権移転登記がされた。

(四) 原告は、合計七四四八万九一〇〇円を、磯波園の債務の弁済資金として提供した。また、原告は、価格二三五〇万円のマンションを買い受けて、西山に譲り渡した。

(五) 原告は、節子に対して、本件マンション一階店舗(価格四七二一万三九八一円)及び一三階事務所(価格四二九四万一九九九円)並びに名古屋市中区のライオンズマンション久屋通七〇一号室(価格七二〇万円)を、節子に代わって西山から貸金の弁済を受けた対価として、譲渡した。

(六) 以上の原告、節子、西山及び磯波園の関係は、典型契約では理解できないものであり、契約自由の原則の下で合意された特殊な契約であると理解すべきであって、原告の本件土地の取得価額は、右契約で約定された二億五〇〇〇万円である。

3  被告の反論

(一) 磯波園の経営状態は、昭和六〇年ころまでは悪くなかった。節子の年収、資力からすると、節子が、二億円を超える金額を、西山に貸し付けていたとは考えられない。また、節子から西山に対して資金提供があったとしても、それについて、借用書は作成されておらず、返済期限や利息の約定もなく、返済の催促もされていないのであり、それらのことに、節子と西山が内縁関係にあったことを考え併せると、節子から西山に対する資金提供は贈与と見るべきものである。

(二) 原告代表者が、昭和六二年七月ころ、西山との間で、二億五〇〇〇万円の弁済に代えて原告が本件土地の所有権を取得することを合意した事実はない。そのような合意をした旨の契約書が存するが、これは、原告代表者が昭和六二年八月ころ、西山に無断で作成したものである。

(三) 原告が、価格二三五〇万円のマンション(名古屋市東区所在のダイアパレス東白壁A棟八〇六号室)を買い受けたことはあるが、それを西山に譲渡した事実はない。

三  争点2(本件更正処分は、原告が本件事業年度の法人税について刑事処分を受けたことを理由に許されないかどうか)に関する当事者の主張

1  原告の主張

原告は、本件事業年度の法人税について刑事処分を受けている。ところが、右刑事処分においては問題とされなかった申告内容について本件更正処分がされた。このような更正処分は、原告を二重の危険にさらすものであるから、許されない。

2  被告の主張

更正処分は、行政処分であって、刑事上の処分ではないから、更正処分について「二重処罰の禁止」に抵触する事態は生じない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第四争点についての当裁判所の判断

一  争点1について

1  証拠(乙六、乙一五の一、二)と弁論の全趣旨によると、原告は、本件土地上に、本件マンションを建築し、本件事業年度において、二戸(専有部分の面積合計一九〇・二四平方メートル)を除くその余の各戸の分譲を行ったこと、原告は本件修正申告において、本件土地の取得価額は二億五〇〇〇万円であるとして申告したこと、以上の各事実が認められる。

2  そこで、本件土地の取得価額について判断する。

(一) 証拠(甲五(西山作成部分については、後記(二)のとおり)、一〇、乙一ないし三、乙四の一ないし三、乙五ないし一一、乙一二の一、二、乙一三の一ないし三、乙一四、乙一五の一、二、乙一六、乙二四、二八ないし三四、乙三九ないし四一、乙四三の一ないし三、乙四四の一、二、乙四五、乙四六、四七の各一、二、乙四八ないし五一、乙五二、五三の各一、二、乙五四ないし五七、証人西山哲美、同山内節子、原告代表者)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 磯波園は、昭和四五年四月四日に設立され、愛知県知多郡南知多町大字山海において、料理旅館を営業してきた。

西山は、磯波園の代表取締役として、同社の経営に当たってきた。

磯波園は本件土地の上に昭和四五年ころに建てられた西山所有の鉄骨コンクリート造三階建の建物で料理旅館を営業していた。本件土地上には、他に、西山所有の木造二階建の建物と西山の父の所有であったが昭和五六年二月に西山が相続によって取得した木造平家建の建物の合計二棟の建物があった。

本件土地は、西山の父の所有であったが、昭和五六年二月に、西山が相続によって取得した。

(2) 節子は、昭和三四年ころから、名古屋市中区で、「バー・ミロ」という店名のクラブを経営していたところ、昭和四二年ころから、西山と内縁関係になった。節子と西山は、互いの住居に行くのみで、同居したことはなかった。

(3) 磯波園は、昭和六二年五月五月下旬ころ、経営危機に陥り、手形の決済資金を調達することができなくなった。そこで、西山は、節子の弟である原告代表者に対し、手形の決済資金の提供を依頼した。

そして、原告代表者と西山との間において、原告は、西山に対して、磯波園の手形の決済資金を提供し、西山は、原告に対して、本件土地及びその土地上の建物を担保にする旨の合意が成立し、同年六月六日、本件土地及び本件土地上の建物三棟について、原告のために、同月五日代物弁済予約を原因とする所有権移転仮登記がされた。

原告は、右約定に従い、西山に対して、磯波園の手形の決済資金を提供した。同年七月までに原告が提供した資金の総額は、一一〇〇万円であった。

(4) 西山は、同年七月に入ってから、このまま磯波園の営業を継続しても、債務が増えるばかりで、営業を継続することは困難であると考え、磯波園の債務をすべて清算して、同社の営業を止めることとした。そして、西山は、原告代表者に対し、本件土地の所有権を原告に移転するので、磯波園の債務を原告においてすべて清算するよう申し入れた。

また、西山は、原告代表者に対して、磯波園の債務の額は、原告の資金により決済された右手形債務を含めて約七〇〇〇万円であると説明した。

(5) 原告代表者は、西山の右申出に応じることとし、原告と西山との間において、同年七月二五日付けで、二通の「代物弁済証書」と題する書面が作成された。その一通は、「西山は、同年六月五日に締結した金銭消費貸借契約に基づき西山が原告に対して負担する元本二〇〇〇万円及びこれに対する同日から同年七月二五日までの利息の弁済に代えて、別紙物件目録記載(二)及び(三)の土地の所有権を原告に移転する」旨の契約書であり、もう一通は、「西山は、同年六月五日に締結した金銭消費貸借契約に基づき西山が原告に対して負担する元本五〇〇〇万円及びこれに対する同日から同年七月二五日までの利息の弁済に代えて、別紙物件目録記載(一)の土地の所有権を原告に移転する」旨の契約書である。

そして、同年七月二九日、本件土地について、同月二五日の代物弁済を原因として、西山から原告に対して所有権移転登記がされた。

(6) 同年八月に入ってから、西山に対し、磯波園に勤めていた村瀬満理子を通して、本件土地の買取りの申出があったので、西山は、その話を原告代表者に伝え、原告代表者に対して右の申出をして来た者に本件土地を売ることの承諾を求めた。

ところが、原告代表者は、本件土地にリゾートマンションを建築して販売する計画であったので、これを断り、以後そのような申出がされたときに、高額の対価を支払って本件土地の譲渡を受けたようにみせかけて申出に対抗するために、「西山は、同年六月五日に締結した金銭消費貸借契約に基づき西山が原告に対して負担する元本二億五〇〇〇万円及びこれに対する同日から同年七月二三日までの利息二〇〇万円に代えて、本件土地及び本件土地上の建物三棟の所有権を原告に移転する」旨の同年七月二三日付けの「代物弁済契約証書」と題する書面を作成し、その書面に、原告の記名押印をするとともに、西山の住所氏名を記載し、その名下に西山から預かっていた印鑑を押捺した(甲五の債務者欄の最初の二行の記載及び乙三の債務者欄の記載)。

(7) 磯波園は、昭和六三年一月ころに営業を止めた。その後、原告は、本件土地の引渡しを受け、昭和六三年三月ころから本件マンションの建築工事に着手し、本件マンションは、平成元年六月に完成した。

(8) 原告は、平成二年二月一五日に、正田要との間において、同人から名古屋市東区所在のダイアパレス東白壁A棟八〇六号室を買い受ける旨の契約を締結し、同年三月六日までにその代金二三五〇万円を支払い、同月七日、原告に対して右不動産について所有権移転登記がされた。そして、同月一四日、原告から高安ひとみに対して右不動産について所有権移転登記がされた。

(9) 原告は、平成二年三月三〇日までの間に、合計七四四万九一〇〇円を、西山に交付するなどして、西山に対して磯波園の債務弁済資金を提供し、磯波園の債務は、すべて弁済された。

原告は、西山に対して提供した右の債務弁済資金を仮払金として計上した。また、原告は、原告が西山に代わって右(8)のダイアパレス東白壁A棟八〇六号室を買い受けて代金を支払ったとして、右不動産の購入代金を仮払金に計上した。そして、原告は、右のとおり仮払金として計上した九七九八万九一〇〇円を、平成二年四月三〇日に、未払金の借方科目に振り替えるとともに、同日、未払金の貸方科目に、本件土地取得の対価として二億五〇〇〇万円を計上し、これらを相殺処理した。

原告は、西山に対して平成二年一〇月に右相殺後の残債務の弁済として一億円を支払い、平成三年四月に西山から右一億円のうち五二三〇万円の返戻を受けたことにして、平成二年五月一日から平成三年四月三〇日までの事業年度(以下「次の事業年度」という。)の法人税について確定申告をした。しかし、実際には西山に対する右支払及び西山からの右返戻の事実はなく、右の会計処理は虚偽のものであった。

(10) 名古屋国税局は、平成三年六月に、原告の本件事業年度の法人税について犯則調査を開始し、平成四年二月に、原告を法人税法違反の嫌疑で告発した。

(11) 本件マンションの一階店舗について、平成三年一二月二六日に、平成二年四月一日の売買を原因として、節子のために所有権保存登記がされた。

本件マンションの一三階事務所について、平成六年三月三一日に、真正な登記名義の回復を原因として、原告から節子に所有権移転登記がされた。

名古屋市中区のライオンズマンション久屋通七〇一号室について、平成三年一二月二六日に、真正な登記名義の回復を原因として、原告及び原告代表者から節子に各持分二〇〇分の九〇の持分一部移転登記が、平成六年三月二八日に、真正な登記名義の回復を原因として、原告及び原告代表者から節子に各持分二〇〇分の一〇の持分全部移転登記がされた。

(二) 右(一)(6)の代物弁済契約証書(甲五、乙三)について、原告代表者は、これを作成した昭和六二年八月ころ、西山の口頭の承諾を得て作成した旨供述し、証人西山哲美も同旨の証言をする。しかしながら、この契約書は、右(一)(5)の契約書に比べて本件土地の対価が大幅に高くなるなどの重要な変更があるから、原告が、西山から口頭の承諾を得たのみで、西山に署名を求めなかったというのは著しく不自然である。また、右(一)(6)認定のとおり、西山は、原告代表者に対して、本件土地を原告以外の者へ売却することにつき承諾を求めていることからすると、西山は、より有利な売却先があれば、本件土地をそこへ売却することを考えていたものと認められるところ、右(一)(6)の契約書は、右(一)(5)の契約書に比べて対価が大幅に高くなっているから、他の者への売却を考えていた西山にとって、不利なものであるということができる。したがって、原告代表者には、西山に無断で右(一)(6)の契約書を作成することについての動機が存する。さらに、西山は、右のとおり口頭で承諾した旨の証言をするものの、その証言はあいまいである上、証拠(乙二四)によると、西山は、平成五年一月二七日に、名古屋国税不服審判所において、国税不服審判官に対して、右証言とは異なる供述をしていることが認められる。以上のようなことからすると、右(一)(6)の契約書の作成について西山の承諾を得た旨の右供述及び証言を信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、甲五の債務者欄の後の二行の西山の住所氏名及び西山名の印影は、証拠(乙三、乙六、原告代表者)と弁論の全趣旨によると、平成四年になってから西山によって記載及び印鑑の押捺がされたものと認められる。

(三) 証人山内節子は、節子が西山に対して磯波園の経営のために貸し付けた貸金の額は二億円を下らない旨の証言をするほか、証人西山哲美は、西山が節子から磯波園の経営のために借り受けた金員の額は一億五〇〇〇万円を下らない旨の証言をする。しかし、次のとおり、これらの証言を信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

(1) 節子が西山に対して磯波園の経営を助けるために金員を交付したかどうかについて

ア 節子は、以前内縁関係にあった石川幸蔵に、昭和四〇年から四一年にかけて合計一七〇〇万円を貸し付けていたところ、磯波園が営業を開始したころに五〇〇万円、それより後の時期に一二〇〇万円の弁済を受けた旨及び節子の弟二人に、昭和三二年から昭和四二年にかけて合計一二〇〇万円を貸し付けていたところ、磯波園が営業を開始したころに、それらの貸金の弁済を受けた旨の証言をし、甲一一には、これに沿う記載がある。しかし、これらの貸付け及び弁済の事実については、それを裏付ける書証は全く提出されていない上、証拠(乙五八、証人山内節子)と弁論の全趣旨によると、昭和三二年の所得税法の改正から昭和三九年の同法の改正までは、年収が二〇〇万円以上の者が、昭和三九年の所得税法の改正から昭和四六年の同法の改正までは、年収が五〇〇万円以上の者が、それぞれ高額納税者として公示されていたところ、節子は、その間に高額納税者として公示されたことはないことが認められるから、右証言及び記載は、直ちに信用することができない。

また、証人山内節子は、右(一)(1)認定の本件土地上の鉄骨コンクリート造三階建の建物の建築費約五〇〇〇万円を節子が負担した旨の証言をし、証人西山哲美は、建物の建築費を含めて磯波園が営業を開始するための経費約六〇〇〇万円を節子が負担した旨の証言をし、原告代表者は、建物の建築費を含めて磯波園が営業を開始するための経費約五五〇〇万円を節子が負担した旨の供述をする。しかし、これらの各証人及び原告代表者は、いずれも、右資金の出所については明確な証言又は供述をしていない上、磯波園が営業を開始したころに、節子が高額の貸金の弁済を受けた事実を認めることができないことは、右に判示したとおりであるし、証拠(甲八、九、一一、証人山内節子)によると、節子は、昭和四二年に愛知県春日井市八事町三丁目所在の土地を買い受け、昭和四五年に代金一四〇〇万二〇五〇円で売却したことが認められるから、この売却代金を右建物の建築資金に充てた可能性はあるものの、その点について明確な裏付けとなる証拠はない。そして、他に右の建物の建築費等を節子が負担した旨の証言及び供述の裏付けとなる証拠はない。

イ 証拠(甲二の一ないし一三、甲三)と弁論の全趣旨によると、愛知銀行半田支店の磯波園名義の預金口座には、昭和五一年四月一〇日から昭和六二年九月一八日までの間に、節子又は西山名義で、多数回にわたり金員が振り込まれていることが認められる。しかし、これらの金員が振り込まれた理由を個別的に特定するに足りる証拠はないから、これらの金員のすべてが、節子が西山に対して磯波園の経営を助けるために交付したものであると認めることができないのはもとより、これらの金員の中に節子が西山に対して右のような趣旨で金員を交付したものが含まれているかどうか、含まれているとしてもその金額はいくらであるかは明らかでないというほかない。なお、証人西山哲美は、西山は、西山名義で磯波園の預金口座に金員を振り込むことはないから、西山名義で振り込まれた金員は節子が振り込んだものである旨の証言をするが、同証言及び他の証拠によっても、西山が振込みに当たって自分の名前を使用しない理由は明らかではないから、右証言を信用することはできない。

ウ 証拠(乙一七ないし二二、証人山内節子)と弁論の全趣旨によると、節子が昭和五五年から昭和六〇年までの間に税務署に申告した利益の額(売上金額から売上原価と経費を差し引いたもの)に金員支出を伴わない経費である減価償却費の額を加算した処分可能利益の額は、次のとおりであったこと、右の各申告書に西山に対する貸金は記載されていないこと、以上の各事実が認められる。

昭和五五年 二四万二〇四三円

昭和五六年 二五六万〇九四九円

昭和五七年 七二万九〇五九円

昭和五八年 一四〇万一四七一円

昭和五九年 二八四万九七二三円

昭和六〇年 一六二万一五〇〇円

また、証拠(乙五八、証人山内節子)と弁論の全趣旨によると、昭和四六年に所得税法が改正されてから昭和五九年に所得税法が改正されるまでは、年収が一〇〇〇万円以上の者が高額納税者として公示されていたところ、節子はその間に高額納税者として公示されたことはないことが認められる。

エ 西山が節子から多額の金員を借り受けて、それを磯波園の経営のために使用していたとすると、磯波園には西山からの多額の借受金債務が存することになるが、証拠(甲四の一ないし一三、乙二五ないし二七の各一、二、証人西山哲美)と弁論の全趣旨によると、磯波園の決算報告書には、西山からのそのような借受金は計上されていなかったことが認められる。

オ 以上述べたところを総合すると、節子が西山に対して磯波園の経営のための資金を提供した可能性はあるものの、その合計額が二億円又は一億五〇〇〇万円以上もの高額になる旨の証人山内節子及び同西山哲美の各証言を信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 節子が西山に対して交付した金員の性質について

仮に、節子が西山に対して、磯波園の経営を助けるために金員を交付したことがあるとしても、それらの金員について、借用書の作成、返済期限や利息の約定、返済の催促がされたことを認めるに足りる証拠はなく、右(1)ウエ認定のとおり確定申告書や決算報告書にも記載されていなかったのであるから、節子と西山が内縁関係にあったことを併せ考えると、節子から磯波園に対する右資金提供は、贈与と見る余地が十分にある。したがって、それらが貸金である旨の証人山内節子及び同西山哲美の各証言を直ちに信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

(四) 原告代表者は、本件土地について右(一)(5)の移転登記をする前に、西山との間で話し合い、原告が提供する磯波園の債務の弁済資金一億円及び節子の西山に対する貸金のうち一億五〇〇〇万円の合計二億五〇〇〇万円の支払に代えて、本件土地の所有権の移転を受けることになったが、司法書士から、二億五〇〇〇万円の支払に代えて本件土地の所有権の移転を受けるのでは費用がかかると言われたので、右(一)(5)のような契約書を作成した旨の供述をする。

しかし、節子が西山に対して二億円以上の貸金を有していた事実が認められないことは、右(三)で判示したとおりであるし、証拠(原告代表者)によると、右(一)(5)の移転登記をする前に、原告代表者と西山との間で、節子の西山に対する貸金の額について書類などによって確認することはなかったものと認められる。

また、節子の西山に対する貸金の支払に代えて原告が本件土地の所有権の移転を受けたとすると、原告と節子との間で清算を行う必要があるが、右(一)(5)の移転登記がされたころに、原告と節子との間で清算について何らかの合意がされたことを認めるに足りる証拠はないし、証拠(乙四三、四四の各一)と弁論の全趣旨によると、原告の本件事業年度及び次の事業年度の各確定申告書には、節子に対する債務は計上されていないことが認められる上、右(一)(11)認定のとおり節子に対して不動産の移転登記がされていたのも平成三年一二月以降であることからすると、原告代表者は、右(一)(5)の移転登記がされたころには、節子に対する清算を要するとは考えていなかったものと認められる(これに反する原告代表者の供述は信用することはできない。)。

さらに、右(一)(二)のとおり、原告と西山の間で、両者の合意に基づいて作成された契約書は、右(一)(5)の契約書のみであり、右(一)(6)の契約書が西山の承諾を得て作成されたとは認められないし、証人西山哲美は、右(一)(5)の移転登記をする前には、二億五〇〇〇万円という数字は出ていなかったと証言している。

以上述べたところに、右(一)(9)認定のとおり原告が二億五〇〇〇万円で本件土地を取得したように見せかけるために虚偽の会計処理をしていることをも併せ考えると、原告代表者の右供述は信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

(五) 右(一)(8)のとおり、原告は、正田要から名古屋市東区所在のダイアパレス東白壁A棟八〇六号室を買い受けて代金を支払ったことが認められ、また、右(一)(9)のとおり、原告は、西山に代わって右不動産を買い受けて代金を支払ったものであるとの会計処理がされていることが認められるが、右不動産については、右(一)(8)認定のとおり、原告から高安ひとみに対して所有権移転登記がされており、原告が買い受けた後、西山が右不動産を取得したとすべき事情は認められないから、いまだ、本件土地の対価として、右不動産を西山が取得したと認めることはできない。

(六) 以上述べたところに右(一)で認定した事実を総合すると、原告は、西山との間で、原告は西山に対して磯波園の約七〇〇〇万円の債務の弁済資金を提供し、西山は、その提供された資金の弁済に代えて、原告に対して、本件土地の所有権を移転するとの契約を締結し、原告は、右契約に基づいて、本件土地の所有権を取得し、七四四八万九一〇〇円を支出したものと認められるから、原告の本件土地の取得価額は、七四四八万九一〇〇円であると認められる。

(七) なお、弁論の全趣旨によると、不動産鑑定士加藤高明が原告の依頼により本件土地の昭和六二年一〇月三一日現在の価格を鑑定した鑑定書であると認められる甲一には、本件土地の価格は、一億七〇二四万九〇〇〇円であるとの記載があることが認められる。しかし、右鑑定評価が正しいとしても、実際の不動産の取引価格は、売買当事者が取引の当時置かれていた事情等に左右されるのであるから、右の鑑定評価額が右(六)認定の本件土地の取得価額よりも高いからといって、直ちに右鑑定評価をもって右(六)の認定を覆すものということはできない。

殊に、本件においては、右(一)認定のとおり、西山は、その経営している会社が倒産の危機にひんしており、その会社の債務を、迅速かつ円滑に整理することが念頭にあったと考えられるから、会社の債務が整理できるのであれば、価格的には必ずしも有利でなくとも本件土地を処分したであろう状況であったのに対し、原告は、本件土地を取得しなければならない状況にあったとは認められないから、価格的に有利でなければ本件土地を取得しなかったものと考えられるのであり、このような事情からすると、本件土地の取得価額が、客観的な価格よりも低額であったとしても、不自然ではない。

(八) よって、本件修正申告における本件土地取得価額の過大計上額は、二億五〇〇〇万円から七四四八万九一〇〇円を差し引いた一億七五五一万〇九〇〇円であるということができる。

3  証拠(乙一五の一、二)と弁論の全趣旨によると、本件マンションの専有部分の面積の合計は、二八三〇・三八平方メートルであると認められるから、原告が右1認定のとおり分譲を行った専有部分の面積の合計は、二六四〇・一四平方メートルであり、これについての土地売却原価の過大計上額は、一億六三七一万四一八二円(取得価額の過大計上額一億七五五一万〇九〇〇円に、原告が分譲を行った専有部分の面積の合計を乗じ、本件マンションの専有部分の面積の合計で割った金額)であるということができる。

4  弁論の全趣旨によると、原告は、本件修正申告において、確定申告額から、減価償却費を九万一九七八円減算すべきところ、誤って九万二九七八円減算しているから、減価償却費の減算が一〇〇〇円過大であると認められる。

5  本件修正申告における所得金額一億二二〇三万九六八五円に、右3の土地売却原価の過大計上額一億六三七一万四一八二円及び減価償却費の減算過大額一〇〇〇円を加えると、原告の所得金額は、二億八五七五万四八六七円となるから、被告が本件更正処分において認定した所得金額二億六三八三万四三八六円を上回ることになる。

二  争点2について

憲法三九条後段は、「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」と規定しているが、この規定は、同一の犯罪について重ねて刑罰を科すことを禁じた規定であって、ある年度の法人税について刑事処分を受けた者に対して、その年度の法人税について行政処分である更正処分をすることを禁じた規定でないことは、明らかであり、その他、ある年度の法人税について刑事処分を受けたものに対して、その年度の法人税について刑事処分においては問題とされなかった申告内容に関して更正処分をすることが禁じられているとすべき法的根拠はない。

したがって、原告が本件事業年度の法人税について刑事処分を受けたとしても、被告が本件更正処分をすることが許されないということはできない。

第五総括

以上の次第で、本件請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 岩松浩之)

別紙

物件目録

(一) 所在 愛知県知多郡南知多町大字山海字橋詰

地番 五九番

地目 宅地

地積 三八〇・一六平方メートル

(四二七・七〇平方メートル)

(二) 所在 愛知県知多郡南知多町大字山海字橋詰

地番 六一番

地目 宅地

地積 一〇九・〇九平方メートル

(一一八・六七平方メートル)

(三) 所在 愛知県知多郡南知多町大字山海字橋詰

地番 六二番二

地目 宅地

地積 一三五・五三平方メートル

(一三七・三六平方メートル)

(地目及び地積は昭和六二年七月二五日現在の公簿による。)

(地積の括弧書きの表示は、昭和六三年五月一六日の地積訂正登記後の公簿による。)

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